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【お客様インタビュー】古い建物にこそ価値がある。創業220年のヤシマ工業が目指す「建設サービス業」としての戦略と「建物の健康寿命」

  • お知らせ

2025/12/02

創業から200年以上の歴史を持つヤシマ工業株式会社(以下、同社)。江戸時代の柿渋問屋から始まり、時代の変化に柔軟に対応しながら、現在は建物の改修・メンテナンスのプロフェッショナル企業として発展してきました。2022年に社長に就任した西松みずき社長に、同社の歴史、企業理念、そして創業220年を期に、新たに『建物に、健康寿命を。』というパーパスを掲げ、次の時代へと歩みを進めた想いについてお話を伺いました。
社会課題を先取りし、建物の長寿命化を通じて持続可能な社会の実現に貢献する同社の取り組みは、建設業界の未来を示唆するものです。




■ 伝統と変革が生んだヤシマ工業のルーツ
ヤシマ工業の前身は1804年に始まりました。私どもの祖先である文治郎が千葉の下総から江戸に出てきて、柿渋問屋として商店を始めたのが起源です。その後、明治時代になると海外からペンキが輸入されるようになり、柿渋の需要が急激に減少したため、ペンキなどを扱うようになりました。
明治から昭和初期までは建材や塗料を取り扱う商店として営業していました。‎‎戦前までは商店としてさまざまな商品を取り扱っていましたが、第二次世界大戦中、当時お店があった業平橋(現在のスカイツリーのたもと)が、1945年の東京大空襲で被害を受けました。関東大震災も経験していますが、この空襲で店舗、自宅すべてを焼失してしまいました。
これをきっかけに、都内を転々と疎開しながら営業再開の機会を探り、ようやく営業再開ができたのが昭和24(1949)年です。先代は戦後の混乱期にたいへん苦労したと聞いています。


■ 高度経済成長期に迎えた大きな転機
戦後復興の中で工事業に移り始めたのは1950年頃です。当時は物流などがまだ整っておらず、戦後復興という流れの中で塗装工事請負を開始しました。その後、昭和30年(1955年)に「ヤシマペイント」となり、昭和39年(1964年)に「ヤシマ工業株式会社」として法人化しました。その後、高度経済成長期に大きな転機があります。団地の建設が盛んに行われ始めた時期です。公営住宅や公団の外壁塗装、学校建設の塗装工事などを多く手がけるようになりました。1970年代からはマンションなどの集合住宅、RC構造の建物に取り組むようになり、転機となりました。 ‎‎

■ 建物維持への転換
その後、1970年代後半当時、建設業と言えば新築が当たり前の時代でしたが、父(前会長)が「今後、建てられた建物は間違いなくメンテナンスや維持修繕が必要になる」という先見のもと、建物の「改修工事」を専門にやる会社に舵を切ろうと決断しました。そこから、まず「何が原因でこの劣化が発生するのか」という発生のメカニズムを考える「調査診断」のシステムを構築したり、どういう風に改修すれば10年後、20年後に劣化がどう進むのかを予測するような技術開発を重ねました。
1970年代の経済成長を背景に、第二次・第三次マンションブームが到来し、民間分譲マンションの供給戸数が増加しました。そのような時代の流れを受けて、当社はマンションの維持管理やメンテナンスをお手伝いしながら、大規模修繕工事を中心とする事業を展開してきました。こうして培ってきた経験と技術を活かし、現在もマンションの大規模修繕工事が当社の主力事業となっています。

■ ‎‎受け継がれる社会的価値を追求した事業哲学
社会が必要とするもの、社会的価値の高いものを事業の主軸に置くという考え方は普遍的に受け継がれています。江戸時代は柿渋が町の木造建築を守るために汎用的に使われていました。明治以降はペンキを扱うようになり、戦後復興期には住宅不足対策として塗装請負工事に舵を切りました。そして1977年頃、建てられた建物の維持メンテナンスに注目し、改修工事に力を入れ始めました。当時はまだ建物を建てることに注力する時代でしたが、父(前会長)が劣化のメカニズムを調査することに着目したのが、他社との差別化点となりました。

■ 社会課題を形にする――父が示したリーダーの使命
父はアメリカが大好きで、実際にアメリカの街を見て、50年以上経った建物が適切にメンテナンスされて使われている状況に衝撃を受けたそうです。アスベストについても、日本ではまだ問題になっていなかった時期に、アメリカで社会問題として取り上げられているのを見て、「これは間違いなく日本でも問題になる」と予測しました。1980年代後半に学校や公営住宅でアスベスト使用が問題になった時には、それに取り組める会社が少なかったため、パイオニアとして活動することができました。父は亡くなる直前まで「これからの社会課題を考え、それを形にして実現していくことが社長として何よりも大事だ」と言っていました。 ‎‎

■ ‎‎破壊から保全へ――企業理念に込めた建物保存への想い
バブル景気の時代に、アメリカのロサンゼルスとサンフランシスコで起きた地震で、建物が破壊される様子や、倒壊した建物から飛散するアスベストの問題を見て、建物を長く維持メンテナンスするにはどうすればいいかを考えるようになりました。アメリカで使われ始めた「レトロフィット」という考え方を取り入れ、バブル崩壊後に企業理念として策定しました。単にペンキを塗り替えるだけでなく、地震に強く、環境にも配慮し、時代や暮らし方にマッチさせるという総合改修の考え方です。これが創業以来、建物を長く大切に使う「壊さないことへの挑戦」という私たちの理念に繋がっています。 ‎‎

 




■ 施工会社の課題――成果や喜びを共有する仕組みの必要性

BtoBの先には必ずエンドユーザーがいます。マンション住まいの方や賃貸マンションを所有するオーナーさんなど、エンドユーザーが親しみやすく、わかりやすいと感じてもらえることを心がけています。ただ、施工会社として配慮や気遣いが足りていない部分もあります。実際、工事の成果や喜びの声が社内でうまく共有できていないことは反省点です。現場は多くの協力業者さんや職人さん、メーカーさんの力が合わさってできるものなので、その成果をみんなで共有できるシステムや機会が必要だと感じています。 ‎‎

また、職人さんも含め、建設業界全体でなり手不足が深刻化しています。この業界で働きたいと思ってくれる人を増やすためには、仕事の波及力や成果を関わる業界全体で享受できるシステムが必要です。業界全体のポジションアップが必要だと感じています。また、まだまだ男性社会ですが、実際のエンドユーザーの生活では女性の意見が重要なことも多いです。主婦目線で工事の仕方を考えるなど、多様な視点を取り入れることが大切です。 ‎‎

■ サービスの力で差別化――持続可能な建物維持と次世代への継承
私たちは50年近く建物を長持ちさせる技術を研鑽してきましたが、それと同時に、お客様の生活に寄り添い、工事期間中もストレスなく快適に過ごしていただけるよう配慮することも同じくらい重要だと考えています。マンション大規模修繕業界では技術的にできる会社は多いですが、お客様への配慮やサービスの部分で参入障壁があり、そこに私たちの存在価値があると思っています。中途入社の社員からは「今まで自分がサービス業だと思ったことがなかった」という声もあり、お客様のことを考えて配慮を持って施工していくという姿勢は、新築工事とは異なる特徴です。 ‎‎ 私はこの家に生まれ、この立場を預かることになりましたが、この事業こそが日本の人口減少や建物の老朽化という社会課題に対応するために重要だと考えています。この業界の発展に寄与できるような存在になりたいと思っています。



ヤシマ工業だけでなく、この業界自体が次の世代、またその次の世代に受け継がれ発展していくよう、メーカーさんも含めた関係者全体で喜びや成果を共有できる仕組みづくりにチャレンジしていきたいです。そういった点で、日本ペイントの総合力は圧倒的な強みだと思います。マンション大規模修繕の現場では、汎用材料だけでなく、メタリックなど特殊な仕上げ材料も扱われており、エンドユーザー向けを意識した商品名やパンフレットなど、プロモーションの面でも他社より先行されていると感じます。労働力不足が叫ばれる中、DXなども含め、業界を挙げて様々な取り組みが必要になってくると思います。 ‎‎

 
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■ 最後に
西松社長へのインタビューを通じて、200年以上の歴史を持つ同社が、常に時代の変化を先取りし、社会課題に向き合ってきた姿勢が明らかになりました。
「社会が必要とするもの、社会的価値の高いものを事業の主軸に置く」という創業以来の理念が、現在も脈々と受け継がれていることです。アスベスト対策など社会課題を先取りする姿勢や、単なる工事会社ではなく「建築サービス業」として住民への配慮を重視する姿勢は、今後の建設業界のあり方を示唆するものと言えるでしょう。

人口減少や建物の老朽化という社会課題に直面する日本において、ヤシマ工業の取り組みはますます重要性を増していくことでしょう。西松社長が目指す「業界全体の発展」と「次世代への継承」という ビジョンは、持続可能な社会の実現に不可欠な要素です。今後も同社の挑戦から目が離せません。

 
【関連リンク】
ヤシマ工業株式会社公式ウェブサイト(https://www.yashima-re.co.jp/